本科目を履修する上での注意事項

授業の目的

工学のさまざまな分野で現象を表現, 解析する手段として微分積分学線形代数学の知識は欠かせない. ここでは, 2変数関数を主とした微分法, 積分法と線形現象を表現するために必要な行列の基礎知識を身につける.

達成目標

  1. 2変数関数を理解し, 偏導関数, 高次偏導関数, 合成関数の導関数を求めることができる.
  2. 1変数関数及び2変数関数の展開公式を理解し, 近似計算に応用できる.
  3. 1変数関数及び2変数関数の極値を理解し, 求めることができる.
  4. 2重積分を理解し, 累次積分によって求めることができる. また, その知識を体積の計算に応用できる.
  5. 行列とその基本演算を理解し, 計算できる. 逆行列, 連立1次方程式, 基本行列の関係を理解できる.
  6. 行列式とその性質について理解し, 2次と3次の行列式をその性質を用いて求めることができる.
  7. 行列の固有値とその固有ベクトルについて理解し, 求めることができる. また, その知識を行列の対角化に応用できる.

以上の目標を学生が達成できるように, 講義を中心とした授業行う.

授業の予定と記録

第1回 4月 10日(火) ガイダンス(授業の諸注意)
偏微分(1) 2変数関数のグラフ  2.3[1]   134, 135, 136 , 偏微分の定義  2.4[1]   137, 138, 139  / スライド
【授業前】導関数の定義と記号 $\dfrac{dy}{dx}$ の意味についてテキストを用いて調べ, 理解できなかった事項をノートに記しておくこと.
【授業後】2変数関数とその偏微分係数, 偏導関数について確認し, 授業中に解いた問題を解き直すことで知識の定着に努めること.
  • 補足1.1:偏微分係数の幾何的な意味
    1変数関数の微分係数は接線の傾きという幾何的な意味をもちますが, 2変数関数の偏微分係数はどのように解釈できるのでしょうか?偏微分係数は, 一方の変数を固定(例えば $y=b$)した1変数関数($\varphi(x)=f(x,b)$)の微分係数として定めます. 一方の変数を固定した関数のグラフは空間内の曲線と解釈でき, 偏微分係数はこの曲線の傾きとなります.
  • 補足1.2:微分可能性とは
    1変数関数 $f(x)$ の $x=a$ における微分係数が存在するとき, この関数は「$x=a$ で微分可能である」といいます. では微分可能でないとはどういうことなのでしょうか?例えば, $f(x)=\sqrt[3]{x}$ という関数を考えます. この関数は実数全体が定義域で, そのグラフは下図のようになります.
    この関数の $x=0$ における微分係数を定義に従って求めてみると, $$f'(0)=\lim_{h\rightarrow 0}\frac{\sqrt[3]{0+h}-\sqrt[3]{0}}{h}=\lim_{h\rightarrow 0}\frac{\sqrt[3]{h}}{h}=\lim_{h\rightarrow 0}\frac{1}{\sqrt[3]{h^2}}=+\infty,$$ つまり, 正の無限大に発散するので $f'(0)$ の値は定まらず, こん関数は $x=0$ で微分可能ではありません.
第2回 13日(金) 偏微分(2) 高次偏導関数  2.4[2]   140, 141 , 合成関数 $F(t) = f(x(t), y(t))$ の微分  2.4[3] 〜p.60   146, 147  / スライド
【授業前】1変数関数の高次導関数と合成関数の微分公式についてテキストを用いて調べ, 理解できなかった事項をノートに記しておくこと.
【授業後】高次偏導関数と合成関数の微分公式について確認し, 授業中に解いた問題を解き直すことで知識の定着に努めること.
【第1回小テスト】
  • 補足2.1:$(x,y)=(at+h, bt+k)$ が直線を表すこと
    合成関数の微分のところで, 一般に $(x,y)=(\varphi(t), \psi(t))$ は$xy$-平面内の曲線を表すと説明しました. 特に, $a, b, h, k$ を定数とするとき, $(x,y)=(a+ht, b+kt)$ は, $(a, b)$ を通り, ベクトル $(h, k)$ に平行な直線であると述べました. これが直線を表すことを, 別の方法で説明します. $x=a+ht$, $y=b+kt$ なので, これらを $t$ について解くと, $t=\dfrac{x-a}{h}$, $t=\dfrac{y-b}{k}$ となります. この2式から $t$ を消去すると, $\dfrac{x-a}{h}=\dfrac{y-b}{k}$ となり, 式変形により $y=\dfrac{k}{h}x+\dfrac{bh-ak}{h}$ を得ます. これは傾きが $\dfrac{k}{h}$ で点 $(a,b)$ を通る平面内の直線であることがわかります. ただし, これは $h\ne 0$ の場合の議論であることに注意してください($h=0$ の場合の考察はみなさんにお任せします).
  • 補足2.2:合成関数の微分の公式(p.59, 定理2)の式の解釈
    定理で与えられている式と, 授業内で書いた式 $$z'(t)=f_x(\varphi(t), \psi(t))\,\varphi'(t)+f_y(\varphi(t), \psi(t))\,\psi'(t)$$ が結びつかない, どう考えればよいのか, という質問がありました. このタイプの合成関数の微分公式は, まずは上に書いた式(2)を理解してください. 教科書の式は, (2)の式を理解している人が簡略化して書いた式と理解して下さい(簡略化した式を見たときに, 変数などを補完して, (2)の式に直せるようになることが望ましいです).
第3回 17日(火) 関数の展開(1) 1変数関数の展開, 近似値の計算  2.5[1]   142〜145  / スライド
【授業前】1変数関数のグラフの接線の求め方と接線の幾何学的な意味についてテキストを用いて調べ, 理解できなかった事項をノートに記しておくこと.
【授業後】1変数関数のテイラー展開とそれを用いた近似計算について確認し, 授業中に解いた問題を解き直すことで知識の定着に努めること.
第4回 20日(金) 関数の展開(2) 2変数関数のテイラー展開  2.5[2]   148  / スライド
【授業前】1変数関数の展開公式, および合成関数 $f(a+ht, b+kt)$ の導関数の公式についてテキストを用いて調べ, 理解できなかった事項をノートに記しておくこと.
【授業後】2変数関数のテイラー展開とそれを用いた近似計算について確認し, 授業中に解いた問題を解き直すことで知識の定着に努めること.
【第2回小テスト】
  • 補足4.1:2変数関数の1次近似式
    1変数関数の1次近似式は接線の方程式ですが, 2変数関数の場合は接平面の方程式となることを説明しました.
  • 補足4.2:オイラーの公式
    前回紹介した指数関数 $e^x$ と三角関数 $\cos x$, $\sin x$ のマクローリン級数を利用して, オイラーの公式 $e^{ix}=\cos x+i\,\sin x$ を導出する方法を紹介しました.
第5回 24日(火) 関数の極値(1) 1変数関数の極値の判定  2.6[1]   150〜152 , 2変数関数の極値の判定  2.6[2]   153  / スライド
【授業前】関数の増減と導関数の符号についてテキストを用いて調べ, 理解できなかった事項をノートに記しておくこと.
【授業後】1変数関数の極値とその判定法を確認し, 授業中に解いた問題を解き直すことで知識の定着に努めること.
  • 補足5.1:極値の判定条件
    1変数関数の極値を求める際, $f''(a)$ の符号で極大か極小かを判定しましたが, $f''(a)=0$ のときは極値をとる場合もとらない場合もあることを述べました. 一般に, $x=a$ における1次から$(2m-1)$次までの微分係数がすべて $0$ で, $f^{(2m)}(a)\ne 0$ の場合は, $f^{(2m)}(a)$ の符号で極値の判定ができます. 1次から$2m$次までの微分係数がすべて $0$ で, $f^{(2m+1)}(a)\ne 0$ の場合, $f(a)$ は極値にはなり得ません(テイラーの定理を用いて証明できます).
  • 補足5.2:$F(t)=f(a+ht, b+kt)$ の2次導関数の式変形
    2変数関数の極値の判定条件を導出するところで, $F''(0)$ を平方完成しました. なぜこのような式変形をするのか, という質問がありました. 式の符号を調べる際, $(\qquad)^2$ という項をつくっていくという方法をあります(2乗すると必ず$0$以上になる). この結果, $F''(0)$ の符号を調べるには, $D(a, b)=\{f_{xy}(a,b)\}^2-f_{xx}(a,b)\,f_{yy}(a,b)\}$ と $f_{xx}(a,b)$ の符号を調べればよい, ということがわかるわけです.
第6回 27日(金) 関数の極値(2) 2変数関数の極値の判定(判定の手順と例の紹介)  2.6[2]   154, 155  / スライド
【授業前】1変数関数の極値の求め方と判定法についてテキストを用いて調べ, 理解できなかった事項をノートに記しておくこと.
【授業後】2変数関数の極値とその判定法を確認し, 授業中に解いた問題を解き直すことで知識の定着に努めること.
【第3回小テスト】
  • 補足6.1:2変数関数の極値の判定条件について
    $f_x(a,b)=f_y(a,b)=0$ を満たす点 $(a, b)$ に対して, $f(a,b)$ が極値か否かを判定する際, $D(a, b)$ と $f_{xx}(a, b)$ の符号に着目しました. これに関連し, $f_{xx}(a, b)$ の代わりに $f_{yy}(a, b)$ の符号で判定することはできないのか?との質問がありました(とても良い質問). 答えは「できる」です. この判定条件は, $F(t)=f(a+ht, b+kt)$ の2次微分係数 $F''(0)$ の符号を調べることに由来しており, $F''(0)$ を $h$ の2次式とみて平方完成した式 $$ F''(0)=f_{xx}(a, b)\left\{ \left(h+\frac{f_{xy}(a, b)}{f_{xx}(a, b)}\cdot k\right)^2-\frac{D(a, b)}{\{f_{xx}(a, b)\}^2}\cdot k^2\right\} $$ から導かれます. しかし, 同様に $k$ について平方完成した式 $$ F''(0)=f_{yy}(a, b)\left\{ \left(k+\frac{f_{xy}(a, b)}{f_{yy}(a, b)}\cdot h\right)^2-\frac{D(a, b)}{\{f_{yy}(a, b)\}^2}\cdot h^2\right\} $$ から判定することもできます. この場合は, $\boldsymbol{D(a, b)}$ と $\boldsymbol{f_{yy}(a, b)}$ の符号から判定することになります.
第7回 5月 1日(火) 積分(1) 不定積分(定義のみ)  2.7 , 区分求積法・微分積分学の基本定理(定義のみ)  2.8[1][2] , 累次積分の計算(積分順序の交換と変数変換は扱わない)  2.9[1][2]   156〜158, 161  / スライド
【授業前】1変数関数の不定積分, 定積分の定義と計算方法についてテキストを用いて調べ, 理解できなかった事項をノートに記しておくこと.
【授業後】2重積分と累次積分との関係を確認し, 授業中に解いた問題を解き直すことで知識の定着に努めること.
第8回 8日(火) 積分(2) 2重積分と体積  2.9[1][2]   162  / スライド
【授業前】関数のグラフで囲まれる図形の面積や回転体の体積が定積分によって計算できること(「基礎数学II」第13回, 第14回)についてテキストを用いて調べ, 理解できなかった事項をノートに記しておくこと.
【授業後】2重積分を用いて体積が計算できることを確認し, 授業中に解いた問題を解き直すことで知識の定着に努めること.
【第4回小テスト】
  • 補足8.1:重積分の変数変換
    1変数関数の積分については, 置換積分 $$\int_a^b f(x)\,dx=\int_\alpha^\beta f(\varphi(t))\,\varphi'(t)\,dt,\quad \alpha=\varphi(a), \beta=\varphi(b)$$ という計算方法がありました. 重積分において, これに対応する方法が変数変換です(教科書  2.9[3] , および 問題集  160  を参照). その公式の中で, 「ヤコビ行列式」というものがありますが, これは第9回から学ぶ「線形代数学」の主要なテーマと関連しています.
第9回 11日(金) 行列(1) 行列の基本事項, 線形演算と積  3.1[1]   163〜168, 170, 171  / スライド
【授業前】ベクトルの線形演算(和, スカラー倍)と内積についてテキストを用いて調べ, 理解できなかった事項をノートに記しておくこと.
【授業後】行列とその和, スカラー倍, 積について確認し, 授業中に解いた問題を解き直すことで知識の定着に努めること.
第10回 15日(火) 行列(2) 逆行列  3.1[2] , 基本行列と基本変形  演習問題 3.1 4, 5   169, 172〜176  / スライド
【授業前】連立1次方程式の解法(消去法)についてテキストを用いて調べ, 理解できなかった事項をノートに記しておくこと.
【授業後】連立1次方程式, 逆行列, 基本行列の関係性を確認し, 授業中に解いた問題を解き直すことで知識の定着に努めること.
【第5回小テスト】
第11回 18日(金) 行列式(1) 2次と3次の行列式  3.3[2] 例4.   3.3[3]   177〜181  / スライド
【授業前】2次正方行列の逆行列の公式と逆行列の存在条件についてテキストを用いて調べ, 理解できなかった事項をノートに記しておくこと.
【授業後】行列式の性質を利用した演算の手法を確認し, 授業中に解いた問題を解き直すことで知識の定着に努めること.
第12回 22日(火) 行列式(2) 行列式の性質  3.3[3]   182  / スライド
【授業前】行列の基本変形と転置行列についてテキストを用いて調べ, 理解できなかった事項をノートに記しておくこと.
【授業後】行列式の性質を利用した演算の手法を確認し, 授業中に解いた問題を解き直すことで知識の定着に努めること.
【第6回小テスト】
第13回 25日(金) 固有値と固有ベクトル(1) 定義と求め方  3.6[1]   183〜185  / スライド
【授業前】行列の演算規則(分配法則), および逆行列の存在条件についてテキストを用いて調べ, 理解できなかった事項をノートに記しておくこと.
【授業後】固有値, 固有ベクトルの求め方を確認し, 授業中に解いた問題を解き直すことで知識の定着に努めること.
第14回 29日(火) 固有値と固有ベクトル(2) 行列の対角化  3.6[2]   186  / スライド
【授業前】固有値, 固有ベクトルの定義と求め方, 及び対角行列についてテキストを用いて調べ, 理解できなかった事項をノートに記しておくこと.
【授業後】行列の対角化の意味や目的を確認し, 授業中に解いた問題を解き直すことで知識の定着に努めること.
【第7回小テスト】
  • 補足14.1:固有ベクトルの表し方について
    授業で扱った$2\times 2$行列の固有ベクトルはすべて $\boldsymbol{x}=k\left(\begin{array}{c}a\\b\end{array}\right)$($k$ は $0$ でない任意の定数)という形で書けます. $a, b$ の選び方は一意に決まるものではないことの注意してください. 特に, 教科書では $\left(\begin{array}{c}a\\b\end{array}\right)$ が単位ベクトルになるように選んでいます. 単に固有ベクトルを求めるときや対角化するだけなら, 単位ベクトルを選ぶ必要はありませんが, 対称行列を対角化するときは大きな意味があります.

評価の方法と基準

教科書・参考文献について

科目の位置づけ(学習・教育目標との対応)

この科目は, 「基礎数学II」の後続科目であり, 「基礎数学II」を受講した学生は「基礎数学II」の単位を習得していることが履修条件となる. 微分積分学の基礎として, 「基礎数学II」では1変数関数の微分法, 積分法を扱っている. また, 線形代数学の基礎として, 「基礎数学I」ではベクトルを扱っている. この科目では上記2科目の内容を踏まえ, 微分積分学における2変数関数を主な対象とした微分法, 積分法と, 線形代数学における行列式と固有値, そしてそれらの応用として行列の対角化について学習する.

この必修科目を履修することにより, 工学部生として最低限必要な数学の知識を習得することができる. なお, 本科目の履修者は, 本科目に合格しないと後続科目の「応用解析」を履修することができない.

履修登録前の準備

「基礎数学I」, 「基礎数学II」の内容を十分に理解していることが望ましい. 授業時間外課題に挙げたキーワードについてテキスト及び指定の問題集で予習を行うこと.